今日の一曲:Macintosh Plus - リサフランク420 / 現代のコンピュー
MACINTOSH PLUS - リサフランク420 / 現代のコンピュー - YouTube
・遅く長い繰り返しの浮遊
・ノスタルジックな未来
・トラックメイカーの個性の消滅
遅耳なので今さらVaporwaveを知った。ジャンルの概要をつかむとまでは行かないのだけれども、魅力的だと思ったので(それこそ)メモ書き程度に。
「既存曲のカットアップ」という手法は古くは新古典主義などでも用いられたものであり、そしてポップスにおいてはヒップホップという一大ジャンルとして花開いたものである。ただそれでもそこにはオリジナルの和声、リズムパターン(それじたいがまた別の曲を切り取ったものかもしれないが)、そしてラップなどの新要素の追加が行われた。そして、そのなかで原曲はもとのかたちを(4小節単位のループに切断されたりはするけれども)ある程度留めて再演されていた。
翻ってこの「リサフランク / 現代のコンピュー」(以下、「この曲」)とその原曲、ダイアナ・ロス「It's your move」(以下、「原曲」)との関係をみたい。
この曲には基本的に原曲の素材しか使われていない(はず)。しかしそれは「スクリュー」――音程・速度を落とした上で、くぐもったイコライジングや過剰なリバーブを施した上でだ。そして、その主要な繰り返し単位もイントロの16小節、しかもシンコペーションでボーカルが入ってくるところで切断されている。そのあとも原曲の構成を無視した編集が続く。繰り返し単位は何度も変更され、ディレイは深くなり、最後には冒頭で提示された倍の遅さに引き伸ばされた単位が繰り返され、終わる。
ロックのリフ、ヒップホップのループと比較するとあまりにも遅く長い繰り返しを聞かされることで、能動的に聞き入ったりノるような聞き方は難しくなる。この方向性は以降の編集にも通底している。
Vaporwaveの特徴として、上述した「既存曲の破壊的カットアップによるリスナーの突き放し」に加え、「ビジュアル面とあわさった総合的な姿勢」がある。
この曲の題は(これを読めている人ならわかるように)日本語である。しかし、この曲の作者・Macintosh Plusやその他のVaporwaveトラックメイカーたちは決して日本語が読めるわけではなさそうだ。そしてこの曲が収録されているアルバム「フローラルの専門店」のジャケットや、ほかのVaporwave曲のMVをみてもらえればわかるとおり、そのビジュアルは形容しがたいけれども何かの傾向にしたがっている。Amigaで編集したかのような、一昔前から眺めた未来。そういえば日本というモチーフもサイバーパンクで多用されるものだった。ここにあるのは逆説的なノスタルジックに満ちた未来といってもいい。それは、(この曲もそうであるように)Vaporwaveの元ネタとして80年代ディスコ・AOR・イージーリスニング・ミューザックが多用されるのと同一の方向性である。
そして、このVaporwaveは商業性に立脚しすぎているがゆえに商業性からほど遠い。元ネタをわりと雑にいじくる上、そこにラップすらものせなくていい(というかのせてはいけない?)ので、正直DAW多少さわれて80年代の元ネタがあったら数時間以内にできると思う。編集じたいは自由にできるのに、価値観があまりに一定なので個性も出しづらい。ヒップホップのトラックメイクもたいがいだが、これはそれ以上である。極限まで編集者の顔がみえない。
うまくまとまらなかったが、ヒップホップの海賊性をさらに推し進めたスタイル、それでいて魅力的な「スクリュー」された音像への興味を書き留めておいた次第だ。